雲游拳房BLOG

螳螂門を中心に、武術全般について取り扱います。当BLOGは螳螂門を代表するものではありません。 文責はすべて片桐個人に帰します。無断転載・無許可の引用を禁じます。

太極螳螂門 張發祥老前輩(その三)

姜沂老師の武館で練習していた冬のある日のこと、
眼光の鋭い一人の高齢の客人が現れた。
武館の扉を開け、言葉も発さずにその身を入れると周りを睨みつけた。
座っている姜老師を見つけると、つかつかと近づき指を姜老師に突きつけ、
語気荒く問い詰め始めた。
客「姜沂よ、聞くところによると、最近日本人に武術を教えているそうじゃないか!
  お前は何を考えている!あの戦争を忘れたのか!」
姜老師がかすかに私に目配せをすると、立ち上がり、
その客人の背に手を置き、なだめながら太師椅子の一脚を勧め、座らせた。
姜「もちろん忘れちゃいないさ。だが昔とは違う、もう時代も変わった。」
そして振り返り私を指差した。
姜「その子がその日本人だよ。」
客「・・・・・。」
姜老師は腰掛けると、私に向かって手を招いた。
姜「片桐!何をしている!客人に早くお茶をお入れしなさい。」
そのまま客人を示し言った。
姜「彼は私の古くからの友人で、やはり螳螂門の人間だ。」
お茶を注いでいると、姜老師が私を紹介してくださった。
姜「この子は片桐陽といい、日本から螳螂拳を学びに来た。」
客人は鋭い眼光で頭の上から下まで切りつけるように私を見ると、
厳しい表情のまま一言も発さず姜老師に向き直った。
仕方なく、私は礼を失わぬよう一歩退き直立不動で侍っていると、
御二人はそのまま共通の友人の消息や近況を静かに話し始めた。
数十分が過ぎ、姜老師が話を止めチラッとこちらに視線を送ると、
その客人は少しだけ表情を緩めながら、私の方に振り返り聞いた。
客「螳螂拳を学びに来たそうだね。日本では何か学んでいたのかね?」
片「太極螳螂拳と六合螳螂拳を少しだけ学びました。」
客「太極螳螂拳?・・・太極螳螂拳をかね。・・・ではやってみなさい。」
姜「遠慮してはいけない。日本で学んだものをしっかりと打ちなさい。」
片「お恥ずかしいレベルですが、では。」
武館の中央に立ち、根本先生より学んだ乱接拳を打つ。
客「うんっ、確かに太極螳螂拳のものだ。それを一体誰から学んだのかね?」
片「日本の先生からです。」
客「彼は中国人、いや山東の人間かね。」
片「いえ、日本人です。名を根本一己と申します。」
客「日本人!?では彼はそれを誰から学んだといっていた?」
片「王元亮師爺です。」
客「なにっ王元亮!王玉山の次男の王元亮かね。」
片「はい。」
客「おおっ、間違いない。確かにいまお前が打ったのは間違いなく王玉山の乱接拳だった。
  われわれは本当の同門だよ。片桐陽、近くに来なさい。」
客「私の名は張發祥という。私は初めに崔壽山老師につき螳螂拳を学び、
  その後彼の弟子たちから続けて学んだ。やはり太極螳螂門の門人だ。」
それまでの厳しい表情を一変させ、口元を綻ばせた。
客「お前の師は日本人だといったが、お前の演武からでもお前の日本の師が、
  正統なものを学んだことがわかる。そうか王元亮の徒弟か。」
しかしまた表情を沈ませ、しばしの沈黙の後、ゆっくりと口を開いた。
客「ひとつだけ先に聞いておく・・・・、
  お前は学んだ武術を以って中国人を打たないと誓えるか?」
片「えっ。」
客「どうだ、誓えるか。」
片「はいっ!もちろんです。」
客「・・・・・・・、ではお前に少しだけ指点を与えよう。よいかな、姜沂よ?」
姜「よかったな、片桐。お前は本当に幸運だぞ。」
片「あっ、ありがとうございます!張老前輩!」

*大分長文になってしまいましたが(笑)、これが張發祥老前輩とのファーストコンタクトでした。たぶん古くから中国で武術を学んでいる方は似たような経験を少なからずお持ちだと思います。反日感情のことが言われて久しい昨今ですが、これほどはっきりとそれに遭遇したのは私にとって初めてでした。今回張前輩との出会いをあらためて文章にしてみて、いままであまり認識していなかった姜老師の機転気配り心意気に深く感動してしまいました。本当に素敵なやさしい老師ですね。ちなみに姜沂老師は太極梅花螳螂門、張發祥老前輩は太極螳螂門。梁学香師祖以降分かれた派のそれぞれ後代です。
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